アンティーク  マフチェーン

画集を見ていてふと気になったベラスケスが描いた8歳のマルガリータ王女の絵。
手に持っている大きなマフ。大きすぎるマフ。これに手を入れて歩いている時に転んだら大変!

姫君は走る事などなさらなかったのか?馬車にお乗りになる時だけにお着けになられたのか?

いえいえ、おそらくマフは動く時には使わず、ケープ等を外したあとに手を温める時に使われていたものなのでしょう  か・・・・・

そんなことを考えていたら、マフチェーンの事を思い出しました。

ベラスケスはその生涯において何枚ものマルガリータ王女を描いていますがこの作品は特に有名です。レオポルド1世に贈るために制作されたものだと言われています。

ウィーン美術史美術館で実物を見た時は何も気にならなかったのですが・・・・・・・・。

     ディエゴ・ベラスケス作 「青いドレスのマルガリータ王女」1659年
          

マフチェーン

防寒と装飾を兼ねて毛皮でできた円筒形のマフを身に着ける時、首からマフが下がるように通した長い鎖をマフチェーンとよびます。18世紀から19世紀後期にかけてマフと共に使用されました。金を打ち出した高級な質感のマフチェーンは20世紀に入りネックレスとして好まれたため、短くカットされてしまったものも多く、オリジナルの長さ、留め具の付いたものはとても貴重です。

ヴィクトリア時代後期に作られた写真のチェーンは、金が稀少であった19世紀初期の壊れやすいものと比べて堅牢でネックレスとして使うのにも適しています。

私もロングネックレスとして使っています。金色が落ち着いた色なので、派手にならず着けやすいネックレスです。

          1890年頃 イギリス 長さ 約118cm 刻印なし
          イエローゴールド(15金か18金)、留め具(手の一部)にガーネット
          

留め具の手はガーネットで飾られています。
          

とても細かい細工が施されています。よく見ると(下の写真)蛇の頭のようなものが見えます。
何だか気持ち悪い。本当に蛇?

でも、アンティーク・ジュエリーの世界では、蛇はよく登場するモチーフです。 1匹の蛇が自分の尾を咥えている図は『ウロボロス』といって永遠を象徴しますし、2匹の蛇が杖に巻き付いているのは『アポロンの杖』と呼ばれて 叡智を表すそうです。またビクトリア女王の婚約指輪のモチーフが蛇だったことから、この時代には蛇のジュエリーは特に流行したようです。ビクトリア時代に流行したことを考えると間違いなくこの手の中の物は蛇でしょうね。

          

金を打ちだして作った模様。  
          

今ではあまり使われなくなったマフ。絵画や映画でご覧になった方も多いかと思われます。

マフとは
おもに婦人が手を暖めるために、両端から手を差し込んで用いる筒状のものです。材質は毛皮、毛織物、羽毛、ビロード、絹製のもの、刺しゅうやビーズ、レース、リボンなどを飾ったものがあります。15世紀のイタリアに始まり、当初は上流階級の人々の間で用いられましたが、16世紀中期のフランスで一般に普及し始め、17、8世紀には全盛を迎え、1790年代までは男性にも用いられました。これは保温のためよりも威厳を添えるためのものだったそうです。17世紀初期には小形のものを片手で粋に持っていたのが、後半になると大形化し、胴のベルトからつるすようになりました。女子も、アクセサリーとして年齢、階級、季節を問わずに用いていました。貴族のマフは毛皮や絹製でしたが、庶民のものは粗末でした。18世紀には、小さなショルダー・ケープとおそろいにすることが流行しました。大きさは、両手がやっと入るものから、肘まですっぽり入るものまであり、形も円筒形、楕円、筒形、樽形などがありましたが、19世紀には小形化し、1880年代までにはエレガントなものになりました。

そう言えばマフを着けた女性の絵は沢山あります。 

 マネ作        『マフをつけたベルト・モリゾ』1869年
          

 クラムスコイ作      『忘れえぬ女』 1883年  
          

ウィーンの映画の最高傑作
『たそがれの維納(ウィーン)』(1934年)にもマフが登場します。

時は1928年頃、場所はオーストリアの都ウイーン。中年のハラント兄弟は名士で、兄のカール教授は医師、弟のパウルは音楽家コンサートマスター。カール教授は妻ゲルダを、弟パウルは婚約者アニタを伴って舞踏会に来ていた。会場で行われたくじ引きで、アニタは高価な毛皮のマフ(両手を入れる防寒具)を賞品として得る。そこに姿を見せたのが画家ハイデネクで・・・・・・・・・・

          

マフの歴史を片隅に絵画や映画を観るのも楽しいですね。