アンティーク  ストーンカメオ

旅のブログが続きましたが、今回はがらりと話が変わりアンティークのお話。

コーカサスの旅から帰り、その余韻にひたり、ブログにまとめたり、プーシキンの詩集を読んだり、家に閉じこもりがちでしたが、旅のブログを書いている間にも新宿に行く機会がありました。

たまたまアンティークフェアーが開催されていたので、覗いて見ました。
もうあまり物を増やすつもりはないのですが、見るだけでも必ず何かしらの発見があるのでつい足が向いてしまいます。

沢山のお店が出店していて、たまたま声をかけられたのはアンティークジュエリーのお店でした。

「これは珍しいですよ」と言われたのが、小さなストーンカメオのブローチでした。
長方形のフレームが珍しいとお店の方が説明して下さいました。そういえば以前は良く見かけたのですが、
最近アンティークのお店で長方形のフレームのカメオのブローチを見ることが少なくなってきました。

あら、家に有るのと似ているではないですか。しかも持っているのはもっと美人。

付ける機会はあまりなかったのですが、秋になったらコートの襟に付けてみようかしらと思いながら早速家に帰って、久しぶりに眺めてみました。   

                           ストーンカメオ ブローチ
              アゲート(メノウ) 真珠 ローズカットダイヤモンド ゴールド
                        3,5cm×3cm    19世紀中期
          
以前もブログに書きましたが、19世紀の半ば(ビクトリアンの時代)のブローチは、写真のようにピンの長さが、ブローチ 本体より、長い傾向にあります。
          
落下防止のセーフティーチェーンを付けて使っています。
          
このカメオは三層のアゲート(めのう)の一番上の層を髪として表現している 濃淡のある素敵なカメオです。
長方形のフレームにはローズカットダイヤモンドと真珠がセットされています。

ストーンカメオは色の違う層を持つ石を彫って、色の対比で美しさを表現するので、カメオに使えるような大きさの石で、表情を表現するのに適した複数の層を持つ石はとても少ないのです!

今ではストーンカメオに使える複数の美しい層を持つ石が少なくなってしまった事と、固いアゲートを彫る技術はとても難しいので、現代もののカメオはシェルカメオが圧倒的に多くなってしまいました。

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                           カメオの歴史

元来カメオというのは宝石の上に浮き彫り彫刻を施したものをカメオと呼び、そして逆に沈み彫りされたものをインタリオと呼んでいました。
 
カメオという言葉が使われるようになったのは AD13世紀に入ってからですが、BC 3000年頃に彫られたカメオ(彫刻品)がエジプトで出土していて、もっとも古いカメオとして大英博物館に展示されています。

なぜカメオは創られたのでしょうか。
古代エジプト人にとって太陽は太陽神であり、古代ギリシャ人にとって雷・嵐はゼウス神の怒りでした。太陽・雷雨・嵐などの自然現象は、古代の人々にとって驚異であり恐怖であった為、神の怒りを静めるために様々な祭り事がなされ、神の姿を型どった彫刻物を身につけたのです。

当時の人々は自分の運命を知りたいと、神々からのお告げ 神託 に耳を傾けました。戦いに赴くとき、航海に出かける時、豊作を願う時など、それぞれの神の神殿に出かけ、ひたすら祈りを捧げ、そして神の姿のカメオなどを身に付けたりもしました。

カメオの全盛期
19世紀中期はカメオがジュエリーの中でも最も人気がありました。そのころの主流はストーンカメオです。

古代ローマ帝国崇拝者だったナポレオンが、イタリア遠征(1796年から1797年)で素晴らしいカメオとインタリオのコレクションを持って凱旋したことで、フランスの貴族階級の中でカメオが流行したのが発端です。

当時ドレスの生地は厚手の重い物が多かったので、少々重いストーンカメオはそのころのファッションに合っていたことも理由の一つでしょう。

ルーヴル美術館アポロン・ギャラリーにあるナポレオン1世の王冠です。カメオが沢山使われています。

          

ダヴィッドの巨大名画『ナポレオンの戴冠式』にも、大勢の女官たちが大型のストーンカメオを付けているのが描かれています。
日中付けるジュエリーとしてカメオは最も格上のジュエリーとされていたのです。
          
この頃ストーンカメオが高価な物だった為、カメオに使える石なども世界中から集まりました。
其の為アンティークのカメオに使われている材質は、今では考えられないほどの多彩な材質が使われていました。
アゲートの他に、アメジスト、シトリン、ボルダーオパールなどの美しい半貴石や、象牙、珊瑚、もちろんシェルなど素材も使われています。

イギリスのヴィクトリア女王もカメオを愛し、多くの素晴らしいカメオコレクションを所蔵していました。古代から近世まで男性の持ち物であったカメオが、ナポレオンやヴィクトリア女王の影響により女性を飾る装飾品として定着したのもこの時代です。

ダイヤモンドが豊富に出回る1880年頃からカメオブームも衰退期に入り、時代はアールヌーボーに、そして、ドレスも薄手の生地で作られるようになりカメオの人気も次第に薄れて行きました。

絵画を見る時にもこのような装飾品の歴史をふまえて鑑賞すると、より多くの楽しみが増える事も、私がアンティークジュエリーに興味がある理由の一つです。