シリア情勢

シリア中部ホムスで女性や子どもら少なくとも45人が虐殺された。 
昨日このような報道が流れました。

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                                         2010年11月撮影 
 可愛い 人懐っこいシリアの子供達 
          

2010年11月に旅したシリアは平穏でした。ほんの1年5か月前です。子供たちは私を見ると集まってきて話しかけてきました。持っているデジカメを見つけると、「一緒に撮って」とついてきて離れません。撮った写真を見せると嬉しそうに何度も「撮って,撮って」と、しまいには20人ぐらいの子供達がついて来るのです。無邪気な子供たちの笑顔,この子たちは今どうしているのかとても気になります。

この写真を撮った4か月後、2011年の3月ごろからシリアの不穏な状況がしばしば報道されるようになりました。

シリアの町には大統領の大きな写真が至る所に張られていました。アサド前大統領の写真も現大統領と並んで飾ってあったのが印象的でした。今のバッシャール大統領はダマスカス大学医学部を卒業後は軍医として働いた後、英国に留学、ロンドンの眼科病院で研修していましたが、兄が交通事故で死亡したことから やむを得ず留学を中断、シリアに帰国して父親の後継者となり、大統領になったそうです。

昨年2011年1月のチュニジア政変に端を発し、ついにシリアにもその波が押し寄せてきました。

中東のことは複雑で、しかも日本での報道だけでは解らない部分もあります。

各国の思惑で、シリアの国民を無視して騒動をより大きくしているように思えて仕方がないのです。
        
2011年を境に、いくつもの国の情勢が悪化しているように思えます。日本では他の理由で環境が悪化しています。どの国の子供達の笑顔も絶対に守られなくてはいけない。
不条理に満ちた残酷な社会を悲しく思います。

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昨日、日本で報道されたシリア情勢
ホムスの「虐殺」、行動求める声が高まる シリア情勢- AFPBB News(2012年3月13日08時09分)

【3月13日 AFP=時事】シリア中部ホムス(Homs)で、女性21人と子ども26人の合わせて47人の遺体が見つかったことを受け、シリア情勢への外国の介入を求める声が高まっているが、大国の姿勢は依然として分かれている。

 米ニューヨーク(New York)で開かれた国連安保理(UN Security Council)の会合で西側各国は中国とロシアに、ホムスなど反体制派の拠点となっている都市へのシリア政府の攻撃をやめさせるための行動を妨げる姿勢を変えるよう求めた。

 しかしロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相は、外国の介入は中東の紛争を激化させかねない「危険なレシピ」だと述べ、従来の態度を変えなかった。会合後にヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官は、ロシアと中国を含む全ての国がアサド体制に武器を置くよう圧力をかけるようになることを期待すると述べた。

 10、11日の両日シリアを訪問した国連とアラブ連盟(Arab League)のシリア特使、コフィ・アナン(Kofi Annan)前国連事務総長は、その後訪れたトルコの首都アンカラ(Ankara)で、シリア問題の解決は容易ではないが、容認することのできない民間人殺害の即時停止を求めていく姿勢をあらためて示した。

 潘基文(パン・キムン、Ban Ki-moon)国連事務総長は、シリアのバッシャール・アサドBashar al-Assad)大統領に、10、11日の両日の会談でアナン氏がアサド大統領に示した「具体的な提案」に数日以内に応えるよう呼びかけた。

 人権団体などによればシリア第3の都市ホムスは2月上旬から1か月近くに続いた政府軍の砲撃で700人が死亡した。政府軍は1日、反体制派の拠点になっていたホムスのババアムル(Baba Amr)地区を制圧していた。(c)AFP=時事/AFPBB News

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中東のことは複雑で理解しにくいのですが、田中宇氏がネットでのシリアの情勢についての質問に詳しく解説し回答していらした内容が、私には分かりやすく思えましたので下記に転載させて頂きます。

シリアの内戦   田中 宇
*中東のシリアで内戦状態がひどくなっている。シリア情勢について米欧日マスコミは、エジプト型の市民の反政府デモを、アサド政権の軍隊が弾圧して死者が出ているという論調で報じている。だが実際は、カタールサウジアラビア、トルコ、欧米によって支援されて武装したイスラム主義の民兵団が、各所でシリア軍と戦闘しており、事態は「民主化弾圧」でなく「内戦」だ。
*市民の世論は、親政府派と反政府派に2分されている。カタールの機関が昨年末に行ったネット上の世論調査によると、シリア人の55%がアサド大統領を支持し、45%がアサドは辞めるべきだと答えている。シリア市民のデモは、反政府と親政府の両方が行われている。市民の死者が増えているが、多くは、政府軍と反政府ゲリラ軍との戦闘の巻き添えになって死んだと考えられる。

*シリアの現状をめぐる情報は、歪曲や不確定さに満ちている。上記のカタールの機関が行った調査は、シリアを含むアラブ全域のネット世論調査として行われており、アラブ全体の1012人の回答者の81%が、アサド大統領は辞めるべきだと答えたことを強調して表示している。しかし、アサドが辞めるべきかどうかはアラブ全体で決めることでなく、シリア人が決めることだ。シリアの回答者は97人で、そのうち55%がアサド続投を支持し、45%が辞任すべきと答えたと、調査報告書の有意性に疑問があるが、同時に、シリアの反政府ゲリラを支援するカタールによる情報歪曲も強く感じることができる。

アラブ諸国で作るアラブ連盟は、昨年末から1カ月間、シリアに160人の調査団を派遣し、シリア軍が市民を弾圧していないかどうか調査し、報告書を作った。これは、一昨年にシリアで蜂起が始まって以来の、最も本格的なシリア情勢の報告書である。それによると、シリアでは政府支持と反政府の両方のデモが行われ、双方のデモの参加者が衝突して小競り合いになることがあったものの、政府軍がデモを弾圧していることを確認できなかった。半面、反政府ゲリラがシリア兵を殺害しているとか、反政府ゲリラが市街地に拠点を持っているシリア中部の都市ホムスでは、ゲリラが検問所を作って町に搬入される途中の食料を止めており、食糧不足になっていると書いている。

*調査団には、アラブ連盟を代表して、アルジェリア、エジプト、オマーンカタールスーダンの5カ国が要員を送り込み、報告書が作成されて、4カ国が報告書の内容を支持したが、カタールだけは内容に反対した。シリアの反政府ゲリラを強く支援し、アサド政権の転覆を狙うカタールは「シリア軍が市民のデモを弾圧していることが確認できなかった」とする報告書の内容を認めるわけにいかなかった。欧米マスコミが報じるような「シリア軍が市民のデモを弾圧していた」という内容である必要があった。カタールは、ちょうど輪番制のアラブ連盟の議長国であり、報告書の英訳を禁じたり、アラブ連盟のウェブサイトへの掲出を阻止したりして、報告書が広報されることを防いだ。結局、報告書は米国のマスコミにリークされ、英訳され報道された。

*ユーチューブなどネット上には、ホムスなどシリア各地での銃撃戦の様子や、殺された市民の遺体を映した動画が出回っている。情景を英語で説明する若いシリア市民は「活動家」と称し、反政府派の市民だ。いかにアサド政権が悪者かが、動画で描かれているが、実際のところ、誰が市民を殺しているのか、確定できない。ホムスの市街地では、政府軍と反政府ゲリラが戦闘しており、そこで死んだ市民は、イメージとして流布している「反政府デモの最中に政府軍に撃たれた」のではない。

シリアの戦いはイランとの戦い
諜報機関系の分析サイトであるストラトフォーによると、シリアの反政府ゲリラ(Free Syrian Army)は、レバノンから武器などの物資を搬入している。レバノンのベカー平原の北部からホムスへ、中部からダマスカス郊外に続く密輸ルートがある。ベカー平原では、シリアと仲の良いシーア派ヒズボラが密輸取り締まりの警邏をしているが、平原にはスンニの村もあり、そこに滑走路が造られてレバノン国外から武器が搬入されているという。シリアの反政府ゲリラが外国から支援されていることは、広く認知されている。

 シリアでは「シャビーハ」と呼ばれる正体不明の武装集団が各地で跋扈し、デモに参加する市民を殴ったり殺したり、市街地で銃を乱射したり、建物を破壊したりしている。反政府派によると、シャビーハはアサド家直轄の、アラウィ派で構成された政府肝いりの犯罪集団で、シリア政府はシャビーハに反政府運動を弾圧させ、政府は何もやってないと強弁しているという。アラウィ派は山岳系(スーフィ・シーア系)のイスラム教徒で、シリアの人口の11%の少数派だが、植民地支配したフランスがシリア人を分断支配するため、アラウィ派を治安維持部隊として重用した関係で、今でもシリアの軍や警察はアラウィ派が握っており、アサド家もアラウィ派だ(シリア人の70%はスンニ派)。

 しかし、以前アレッポで摘発されたシャビーハは、アラウィ派でなくスンニ派だった。欧米日で流布する「アサド=悪」のイメージで決めつけると「シャビーハはシリア政府傘下の殺し屋部隊だ」となる。だが、欧米やカタールがシリア政府の転覆を狙って反政府ゲリラの戦力を支援しているという現実からすると、シャビーハが反政府ゲリラの一部であり、政府傘下の悪党のふりをして反政府デモ隊を殴りつけ、内外でのシリア政府のイメージを悪化させようとしているとしても不思議でない。シャビーハの実体は不明のままだ。

 シリアの反政府ゲリラを支援してアサド政権転覆を画策しているのは、米英仏のNATO諸国と、カタールサウジアラビアというGCC諸国(ペルシャ湾南岸アラブ産油国)だ。彼らがアサド政権を転覆したいのは、アサドがイランと親しくしており、イラクから米軍が撤退したことで、イランが中東政治の中で台頭し、地中海岸からアフガニスタン西部までの広大な影響圏を確保し、ペルシャ湾岸のGCC諸国にとってイランが脅威になっているからだ。

 もしシリアでアサド政権が転覆され、その後GCC寄りのスンニ派イスラム主義の政権ができて、シリアが反イランに転向すると、新生シリアはとなりのイラクスンニ派ゲリラを支援し、イラクスンニ派シーア派の内戦に陥らせることができる。イラクはこのままだと、スンニ派が弱いまま、親イランのシーア派の政権で安定し、イラクはイランの傘下で大産油国になり、ペルシャ湾岸でのイランの台頭に拍車がかかる。シリアを政権転覆して反イランに転じさせれば、イラクを内戦に陥らせて弱体化でき、イランの台頭を防げる。シリアの政権転覆をめぐる闘いは、実はイランとの闘いである。

 NATOとGCCがアサド敵視である半面、イラン、レバノン、ロシア、中国は、アサドを支持している。いずれもイランと親しい国だ。ロシア海軍はシリアの軍港を、地中海の大事な拠点として租借している。中国はイランやイラクから安定的に石油を調達したいので、シリアの政権転覆を好まない。ロシアと中国は、昨年10月と今年2月の二度にわたって、国連安保理NATOとGCCが企図するシリア政権転覆につながる制裁案を、拒否権を発動して葬り去っている。

 シリアの北隣のトルコも、シリア反政府ゲリラに拠点を貸したり、シリアの事実上の亡命次期政権であるSNC(Syrian National Council)の創設を支援したりして、アサド政権の転覆を支持している。だがその一方でトルコは、シリアを自国の影響圏ととらえ、欧米やGCCが勝手にシリアの政権を転覆することを抑止している。シリアが政権転覆されてイラクも内戦に陥ると、米軍撤退で独立の道が閉ざされたイラクやシリアのクルド人独立運動に再び目覚め、トルコ政府が一番懸念する国内クルド人独立運動が再燃しかねない。だから私が見るところ、実はトルコはシリアの政権転覆を阻止したく、NATOやGCCの勝手にさせぬよう、シリア反政府組織を自国の影響下に置いているとも考えられる。

 NATOとGCCは、国連のお墨付きを得てシリアを政権転覆することができなくなったが、国連と関係なくシリアを空爆して反政府ゲリラを軍事的に支援し、政権転覆を誘発する「リビア方式」が、まだ残っている。しかし詳細に見ると、リビア方式をシリアでやるのは難しいとわかる。米国は今年、微妙な選挙年であり、オバマは新たな戦争をやりたくない。しかも米政府は軍事費削減の真っ最中だ。NATOリビア空爆を主導したのは、米国でなく英仏だったが、フランスは最近「アルメニア人虐殺」をめぐる言論弾圧法でトルコを激怒させており、英仏主導のシリア空爆案に、トルコは賛成しない。GCCは石油成金なので、黒幕になりたがるが直接の戦闘意欲がない。トルコはイランと協調する戦略であり、自らシリアに侵攻すると考えにくい。

▼シリア反政府派は政治能力が低い
 アサド政権を転覆したとしても、その後、別の安定した政権がシリアにできる可能性も低い。リビアは、西部のトリポリが東部のベンガジを長く搾取した構図があり、それを転覆したのが昨年のカダフィ殺害だった。リビアは東部が西部を率いる形になって行きうる。だがシリアにはリビアのような地域主義の構図がない。

 シリアは多民族で、アラウィ派やキリスト教徒、クルド人など、人口の約1割ずつを占める勢力がいくつもある。反政府派を主導するSNCは、これら少数派の権利を守ることをきちんと宣言していないし、少数派の代表との接触が不十分だ。シリアの治安を一手に握るアラウィ派の幹部群の中から反政府派に寝返る人を多く出すことが、政権転覆の戦略として必須だが、SNCはそれを全くしていない。シリア軍から寝返った兵士や将校を取りまとめた組織として自由シリア軍(FSA)が昨年作られたが、実体は烏合の衆に近い。

 シリアのキリスト教徒の多くは、比較的裕福なビジネスマンだ。ダマスカスのキリスト教徒は、米CNNの取材に対し、アサド政権を支持しないが、シリアの安定が保たれることを最も望むと述べ、反政府勢力が、政権転覆後の安定や少数派の保護についてどう考えているのか表明しないのが不安だと言っている。反政府勢力の幹部の中には、アラウィ派を皆殺しにしてやるとか、厳格な(スンニ派の)イスラム教の国にするんだとか豪語する者が目立つ。これでは、キリスト教徒やアラウィ、クルド、シーアなどの少数派が、反政府運動に合流しにくい。

 米欧では、今にもアサド政権が転覆しそうな印象の記事が多く流れている。だがそれらは、出来の悪い、米欧のためにならない歪曲報道だ。中東に住む分析者は、アサド政権はなかなか転覆されず、この内戦は長引くだろうと書いている。

 2月4日に国連安保理で中露が拒否権を発動してシリア制裁案が否決された後、シリア政府は、反政府ゲリラの拠点であるホムスの市街地に砲撃を加え、ゲリラを潰そうとしている。イランは反乱鎮圧用の1万5千人の部隊をシリアに派兵したという。

 2月7日にはロシアの外相がシリアを訪れ、内戦の解決策について協議した。ロシアは、シリア政府軍が反政府ゲリラを武力で鎮圧したところで和解案を出し、反政府派を黙らせたいのだろう。反政府ゲリラが鎮圧されなければ、シリアの内戦は長期化していく。

 シリアの隣国であるイスラエルの上層部は、現状について何もコメントしていないが、彼らもシリアの内戦化を恐れているだろう。従来のシリアは、アサド政権が米欧に制裁されて長く封じ込められ、弱くて安定した、イスラエルにとって都合の良い状態にあった。アサド政権が転覆され、すぐに新政権ができてイラクの内戦化を煽ってくれて、イランの台頭が削がれるのであれば、イスラエルにとって好都合だ。

 だがアサド政権が倒れて安定的な次の政権ができず、内戦がひどくなると、反政府ゲリラの中にイスラエルを敵視する強硬なイスラム主義者が多いこともあり、予測不能な事態になる。イスラエルは、アサド政権が倒れて内戦化した場合、イスラエルが占領している元シリア領のゴラン高原の一部を逃げてきたアラウィ派に使わせてやり、イスラエルにとっての盾として使うことを検討している。中東政治は、敵味方の関係が流動的だ。