世界遺産を保有していない国

2014年6月22日カタールのドーハで開かれたユネスコ世界遺産委員会で日本の「富岡製糸工場」が日本で18番目の世界遺産に登録されたことは周知の通りですが、なんと現在世界遺産登録地は1,007件もあります。

ところが2014年の第38回世界遺産委員会終了時点においても、世界遺産条約を締約している191か国中、
世界遺産を持たない国が30か国あります。

昨年までその30ヵ国にミャンマーが含まれていましたが、今年新規に世界遺産保有国になりました。今年は新たにバハマ世界遺産条約締約国に加わった為、締約191か国のうち、世界遺産保有していない国の数は30か国で、前年と変化はありません。

今までに私が行った事のある国で世界遺産保有していない国は モナコシンガポール、そして今年条約に締約したバハマがあります。

10月1日から行く予定のブータンにも世界遺産がありません。
ブータンは国連・ユネスコ加盟国であり、世界遺産条約締結国です。
      
世界遺産が一つもない国ブータンは、「世界遺産に匹敵するものがない」訳ではありません。
歴史的にも宗教的にも、重要な位置を占めてきた建築物が点在しています。

タクツァン僧院は、標高約3000mの山肌に張り付くように 建てられ、今も僧侶が修行しています。(ブータン          
では何故まだ世界遺産に登録されていないのでしょう。

理由はユネスコ世界遺産条約 の執行を担保する国内法が成立していないからです。したがって、候補はあっても承認を得られないのです。

ブータン政教一致であり、お祭りを除けば唯一ともいえる重要な観光スポットであるゾン(寺院)は、同時に県庁も兼ねており、文化財として保護などされては困ると言う理由もあります。

加えて基本的に、観光を振興する必要がないからです。他の旅行地と異なっている点は、ブータンは、外国からの観光客の数を制限しており(これはあまり気にすることはないようです。)、観光客の数が増えるたびに、1日に支払う額を上げて、数が減るように調整しています。
ブータンを旅行しようとすると、1日あたり2〜3万円も払わねばなりませんこれは殆どブータン政府に上納されます。

又一説には「物質よりも精神の充実」を拠りどころとした「国民総幸福量」という独自の概念に関係しているとも言われています。

優れた建築物が世界遺産となれば、観光客は増え、観光産業から、より多くの外資を得る可能性が広がることは想像出来ます。しかし、「お金や物質が人々を豊かにするのではない」という信念を持つブータンの人々は、世界遺産の登録によって観光客が増え、外資が得られることを、必ずしも自分達にとって良いことだとは考えていないと言われています。

もっとも私は「国民総幸福量」という概念は実は小国が生き残りを賭けた上からの起死回生の安全保障戦略だと考えていますし、ブータンの人々が世界遺産云々などとは考えてはいないと思っています。

登録世界遺産がないのは、国内法がまだきちんと成立していないからなのでしょう。
何故ならブータンはすでに9件の暫定リストも登録済です。
現在、『有形文化遺産保護法』『無形文化遺産保護法』『古文書等保護法』の3つの法整備が、日本の九州大学大学院法学研究院、ユネスコ文化担当協力のもとに進められています。           

とても近い将来 ブータンにも世界遺産が誕生すると思います。

ただ世界遺産に登録されることがその国にとって良い事だけではないと私は考えています。
登録されたとたん観光地となってしまい本来の姿が変わってしまうかもしれません。

私が世界遺産に興味があるのは、世界遺産の裏側にある事情を知ることによりその国と世界情勢を垣間見ることができる事も一つの理由です